
サックス Saxophone
修理・調整の解説と料金
1.メンテナンス・定期調整maintenance
定期調整の勧め:サックスはリークライトと呼ばれる道具を使用してタンポと音孔との隙間を見ます。
主に水分の吸収・乾燥によるタンポの変形(息漏れ)は新品・防水を問わず徐々に大きくなります。
一度タンポの変形が起こると元に戻らないので、タンポ調整が必要になります。
それと同時に調節ネジの緩みやコルク・フェルトの変形と脱落やオイル切れも発生する為、定期的なメンテナンスとして3か月に1回のバランス調整、若しくは半年に1回の全体調整が理想です。(木管共通事項)
タンポ調整:バランス調整、全体調整、タンポ交換時の中で行う基本調整です。
タンポはシェラック(接着兼調整材)で取り付けられており、カップに熱を加えてラックが冷めない内にヘラを使用してタンポと音孔との隙間を無くして息漏れを防ぐ、重要で手間と時間の掛る調整です。
料金:以下の調整代に含む
バランス調整:タンポ調整(該当する箇所)+コルク・フェルト調整(必要により交換)です。
キーには単独で動くものと2~3のキーが同時に動く箇所があります(動画参照)
複数のキーが同時に無理なく閉じる為の作業を指し、其々のタンポに変形が無い(息漏れしない)状態、又は該当するキーのタンポ調整を行った上で、ネジ・コルク・フェルト・バネ圧による部分調整です。
又、サックスにはそれぞれタンポ開き量におおよその基準があり、状態・奏者のお好みによりキーの高さ(ピッチ)を合わせる作業も必要になります。
料金:2,200円~
全体調整:全タンポ調整+バランス調整です。
主に半年以上無調整のサックスのキー全てを分解し、全てのタンポ調整を行った後、上記のバランス調整で楽器の状態を整える全分解調整です。
料金:6,600円~
動画1:全体調整が必要な状態(全タンポ交換及び調整済みとして売られていたもの King Super20)
動画2:全体調整後(同じ楽器を当工房でオーバーホールを行い、1年半経過したもの )
2.コルク・フェルト・タンポpad-cork-felt
コルク・フェルト:単にクッションの役目だけでなく、キーのバランスとタンポの開き量(ピッチ)に重要な役割を担っています。
これらがきちんとしていないと音が出難くなり、音程が取れない等、演奏そのものに支障となります。
使用個所により種類を使い分け、適切な加工・取り付けと調整がストレスの無い演奏を可能にします。
料金:コルク(天然/ハイコテックス)・フェルト・他各種素材等 交換1箇所1,500円(加工・調整込)
タンポ:以下の状態はタンポが寿命なので、交換が必要です(特にb.c.は下記の例2.を参照)
a.音孔に当たる革の溝が擦り切れている(=息漏れ発生)
b.溝が深過ぎて内部のフェルトが押し潰され、弾力性が既に無い(=シェラック不足と強過ぎるバネ)
c.水分の吸収と乾燥を繰り返して収縮し、革や内部のフェルトが硬化して復元力が無い(=経年劣化)
d.レゾネーターが酷く錆付いている(=響きに影響)
特にタンポ交換は「単純な取り替え」ではなく、取り付け技術と調整がとても重要で、後の息漏れ・タッチ感に影響します(例1:当工房でのタンポ取り付け状態 例2:メーカー等でのタンポ取り付け状態)
料金:タンポ交換1箇所2,500円(タンポ調整込)


下:レゾネーターの錆付きで交換が必要な状態なタンポ
3.全タンポ交換・オーバーホールoverhaul
全タンポ交換:消耗品の全交換と調整で「サックスを再生する為の標準的な総合修理」です。
内容は管体洗浄+タンポ・コルク・フェルトの全交換+全体調整+キー調整(位置・曲がり・ガタ取り)+バネ強度再調整+グリスアップとなります。
料金はメーカー(モデル)とタンポ(グレード)の組み合わせで決まります。
特にタンポは材質・価格に非常に大きな差があり楽器の性能に直結するので、ご予算・お好みに合わせて確りとしたものを複数ご提示し、品質・技術が何れも大切なこの修理でサックスを再生致します。
料金:70,000円~
オーバーホール:外部ダメージの修復と機能の完全回復を図る「全タンポ交換+必要な修理」です。
必要な修理には、外部ダメージとして音響・音程に影響がでる程の管体の凹み・歪み・反り・曲がりやジョイント不良の他、機能的な問題のバネ破損・半田外れ・キー折れ・固着・etc.が挙げられます。
Atelier BWはデータ・経験・知識・技術を元に、ご希望の予算・バネ強度(キーアクション)・タンポ開き量(ピッチ)・レゾネーター(響き)・タンポの種類(グレード)等を確認した上で作業を行います。
又、長期間の放置等で動きの悪い状態は勿論、製造・販売段階での瑕疵・不具合も合わせて修理するので購入時よりも遥かに吹き易く、演奏に集中できます(修理実例1)
当工房では現行・中古品のオーバーホールをこのように定め、実際の点検・写真・メール・お電話にて、先の確認事項と合わせて総合的に判断してお見積り致します。
料金:80,000円~
参考:オーバーホール作業風景(Yanagisawa )
4.ヴィンテージサックスvintage-sax
Selmer Mark VIを基礎とする現行品とは音そのものの他、メンテナンス性や操作性による構造なども異なり、加えて半世紀以上(~100年前)の経過で修理にはより高い経験と技術が必要です。
その為、通常より手間暇が掛る基本作業と当時よりも高品質な各種素材を吟味した独自のセッティングを施し、より自然なフィンガリングと、本来持っていた楽器の鳴りを復活させる為にとことん追求します。
これは持った瞬間のタッチ感と演奏時の吹奏感で初めて実感する、シンプルで妥協の無い修理が当工房のヴィンテージサックスにおけるオーバーホールです。
一例として針バネの交換ではモデル別・箇所毎に0.05mm単位で太さを変え、取り付けと曲げ方により巷のヴィンテージ品にありがちな「もたつき」動作のない軽快なキイ操作を実現しています。
サックスは管楽器の中でも数少ない「ヴィンテージ」というジャンル(市場)が成り立ち、各メーカーが個性を競った、その多彩で独特な形状と音色と響きはとても貴重で価値があると考えています。
今迄にオーバーホール(ご依頼及び販売)を行った主なメーカーとモデル:Buescher(True Tone / 400 Top Hat & Cane)Conn(New Wonder I・II / Transitional / 6M・10M)Holton(New Revelation) King(Voll-True / Zephyr / Super20 Full Pearls Silver-Sonic)Martin(Handcraft / Committee III / Magna)Selmer(Balanced Action / MarkVI・VII)SML(Gold Medal Mark1).etc
故に当工房ではオリジナルを保ちつつ、現代でも問題なく演奏できるサックスに仕上げる為に日々研鑚しています。
修理実例2のように半ばジャンク状態でも修理は十分可能です。又、修理の他に販売も行っております。
参考:オーバーホール作業風景(Selmer Mark VI・Conn 6M)
5.ネックコルクneck-cork
交換の勧め:マウスピースをつけると緩い、ぐらつく場合は息漏れの原因となり、交換が必要です。
それと、コルクに欠けや裂け等がある場合も同様です。
料金:3,300円


下:欠けた状態のネックコルク
6.ネックジョイントneck-joint
調整の勧め:本体とのジョイントが緩くなりネジを一杯に締めてもぐらついたりネックが廻る場合は、息漏れや演奏に支障を来たし、鳴りが悪くなるので修理が必要です。
逆に、きつい場合は無理をして差し込むとネックを曲げてしまう事もあるので此方もリペアが必要です。
料金:嵌合調整2,200円~

(締め過ぎるとネジが折れます)
7.キーkey
調整の勧め:サックスで特に多いキーのトラブルは「オクターヴ連絡レバー」の曲がりです。
ここはネックのオクターヴキー(Highレジスターキー)と連動し、オクターヴGとAの間で管体のLowレジスターキーと切り替わります。
従ってこのレバーを曲げてしまうとネックのオクターヴキーが上がらない、若しくはキーが開きっぱなしになり、どちらにせよ演奏がとても困難になります。
転倒・落下でキーが曲がった場合に応急処置として市販のペンチを使うと余計に悪化する為、速やかに修理に出すことをお勧めします。
新品の楽器でも最初からキーのガタや位置ズレがあり、ノイズや息漏れを起こしている場合があります。
料金:キー曲がり修正1,100円~
修理の勧め:クラリネットの項6.と同様です。
修理後にタンポ調整・バランス調整(コルク・フェルト交換)等が必要になる場合があります。
料金:半田付け・ロー付け修理3,300円~

8.管体body
修理の勧め:落下・転倒・打撃によるサックスの管体の凹・曲がり・歪みは金管共通事項と同様に、場所・範囲・規模・修理方法により料金が変わります。
料金:凹み修理2,200円~ ベル縁曲がり修理5,500円~ 2番管反り修理(音孔修正含む)11,000円~




下2つ:ベル縁曲がり修理前後
9.バネspring
交換の勧め:錆の酷いもの、破損、キーのタッチ感の悪いバネ(へたり)は交換が必要です。
特に鋼製(針・板)バネは演奏後に水分を良く拭き取らないで放置すると錆び易くなります。
又、キーポストに埋没して折れた針バネやネジが固着して外せない板バネは料金が上がります。
料金:針バネ1箇所1,100円(各木管楽器共通)

10.修理実例1(Modern Sax)example-selmer
現役は勿論、学生時代に愛用した現行品及び中古サックスもオーバーホールでこのように甦ります。
がたつきのないキーアクションと快適なタッチ感、無理のない音出しとピッチ等、外見からでは決して分からない、基本と原点を確実に押さえた緻密なリペアでサックス本来の能力を引き出します。
修理内容:全タンポ交換+全バネ交換+芯金固着修理+硫化除去+嵌合修理+2番管再接着
上:修理前 下:修理後 サムネイルをクリックすると詳細がご覧頂けます。
∗バフ掛けと再メッキは行っておりません。
H.Selmer “Super Action 80 SERIE II”






10.修理実例2(Vintage Sax)example-conn
このヴィンテージサックス(Conn New Wonder)は製造から100年以上経過しており、その殆どの期間使用されておらず、ケースに入れられたままの状態でした。
結果、銀メッキの管体は完全に「硫化」し、ネジ(鉄部)類は全て錆付きを起こして固着と癒着が激しく、タンポは紛失・擦り切れ、コルク・フェルト・バネの劣化・破損が多い等、演奏は不可能でした。
然し、経年による音質の劣化が起き難いのが金属管の利点で、且つ銀の硫化は腐食を防ぐ保護膜の役目があり、かつての名器は地道で念入りなオーバーホールで再び美しい姿と豊かな響きを取り戻しました。
修理内容:全タンポ交換+全バネ交換+芯金固着修理+硫化除去+凹直し+半田付け+etc.
上:修理前 下:修理後 サムネイルをクリックすると詳細がご覧頂けます。
∗バフ掛けと再メッキは行っておりません。
C.G.Conn “New Wonder I” 1924





